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第2話 「近づけば殺す」と言う竜の本音

last update publish date: 2026-08-30 10:40:27

第2話 「近づけば殺す」と言う竜の本音

 黒い鎖に囚われた白銀の竜は、近づいてくる俺を追い払おうとするように大きく口を開いた。

 鋭い牙の奥で青白い光が揺らぎ、周囲の空気が一瞬にして張り詰める。竜が吐く炎ならぬ冷気にさらされれば、外套一枚しか身を守るものがない俺など、悲鳴を上げる暇もなく凍りつくだろう。

『聞こえなかったのか、人間。それ以上近づけば、おまえを殺すと言ったのだ』

 耳に届いたのは、雪崩が起きる直前の地鳴りにも似た低い咆哮だった。しかし、「万象通訳」がそこへ意味を与えると、若い女性の声として理解できた。

 怒ってはいる。警戒もしている。けれど、そこに本気の殺意はなかった。

 それどころか、俺の耳には、彼女が口にしている威嚇とはまるで違う魂の声が重なって聞こえていた。

『来てはいけない。この鎖に触れれば、この人間まで傷つく。早く逃げてくれ』

 自分を助けてほしいと願いながら、俺を巻き込みたくないとも思っているらしい。

 ずいぶんと面倒な竜だと思ったが、自分の本音を隠しながら相手の事情ばかり考える人間を、俺は一人よく知っていた。

「殺すつもりなら、もう少し元気そうに言ったほうがいい。口の奥に光が見えているけれど、さっきから一度も冷気を吐いていないし、右の翼も動かせていない。たぶん、その鎖は攻撃しようとするたびに締まる仕組みになっているんだろう」

 白銀竜の瞳がわずかに見開かれた。

『なぜ、私の言葉が分かる』

「一応、通訳だから。もっとも、ついさっき役立たずという理由で仕事を失ったばかりだけど」

『ふざけている場合ではない。私の言葉を理解できるなら、状況も理解できるはずだ。この鎖を仕掛けたのは、おまえと同じ人間だぞ』

「それは見れば分かる。鎖の留め具にアストリア王国軍の紋章が入っているからな。だからといって、俺まで仕掛けた側に数えられるのは困る。俺はその王国から、外套とパンだけ持たされて雪原へ捨てられたところだ」

『人間同士の争いなど、私の知ったことではない』

 白銀竜は冷たく言い放ったが、魂の声では、『外套とパンだけで、この吹雪の中へ追い出したのか。人間は同族にさえ、そのような仕打ちをするのか』と憤っていた。

 どうやら、口にしている言葉よりも、心の内側から漏れている声のほうが素直らしい。

 ただし、これほど明確に心の声を聞いた経験は、俺にもなかった。

 魔物の感情を読み取ったことなら何度もある。森へ入るな、子どもを守りたい、腹が減った、縄張りから出ていけといった強い意志は、鳴き声や気配を通じて理解できた。だが、この白銀竜の魂から届く声は、人間の会話と変わらないほど鮮明だった。

 理由は分からない。今はそれを考えるより、彼女の命をつないだほうが先だった。

「鎖を調べたい。いきなり触ったりはしないから、もう少し近くまで行ってもいいか」

『許可すると思うのか。おまえが人間の術者なら、拘束を強めるために近づいてきた可能性もある』

「術者なら、剣どころか杖も持たずに吹雪の中を歩いてこない。それに、拘束を強める必要があるほど、あなたは動けそうに見えない」

『言葉を選べ。竜族に対して無礼であるぞ』

「命を助けてほしい相手へ、もう少し愛想よくしたほうがいいのは、あなたも同じだと思う」

 白銀竜の目が細められた。

 怒らせたかと身構えたものの、聞こえてきた魂の声は予想と違っていた。

『なんなのだ、この男は。私を前にして怯えないどころか、愛想がないと文句を言ってくる人間など初めて見た。いや、少しくらいは怯えてもよいのではないか。私にも竜族としての威厳があるのだぞ』

 俺は危うく笑いそうになり、凍えた頬へ力を入れて耐えた。笑った理由を説明すれば、彼女が本当に冷気を吐いてくるかもしれない。

「それじゃ、近づくけれど、嫌なら尻尾でも動かして合図してくれ。言っておくが、急に噛みつかれても避けられないから、殺すならなるべく痛くしないでくれると助かる」

『待て。誰が許可した』

「近づくなと言いながら、魂の声では助けてくれと言っている。どちらに従えばいいのか分からないから、俺に都合のいいほうを選ぶことにした」

 その瞬間、白銀竜の瞳から、怒りとも驚きともつかない色が消えた。

『今、なんと言った』

 低い声が雪原へ響いた。先ほどまでの威嚇とは違い、そこには明らかな動揺が混じっている。

 まずいことを口にしたらしい。

 俺は足を止め、どう説明するべきか迷った。通訳として働いていた頃から、聞こえたすべてを本人へ伝えるわけではなかった。交渉相手が漏らした独り言や、魔獣の恐怖を無遠慮に言葉へ変えれば、余計な争いが起きる。理解できることと、それを口にしてよいことは別だ。

「正確には、声というより、強い感情に伴って外へ漏れた意味だ。あなたが考えていることを、何から何まですべて読めるわけじゃない。だから、今すぐ食べたいものや、昔好きだった相手の名前を聞かれても分からない」

『好きだった相手などいない!』

「そこは否定しなくてもいいだろう。例として挙げただけだ」

『人間はいつも、そのように相手の許可なく心を覗くのか』

「俺以外の人間には聞こえない。それに、俺だって好きで聞いているわけじゃない。聞こえたことを利用して脅したり、笑いものにしたりするつもりもない。ただ、助けを求める声まで聞こえなかったふりをするのは、あまり得意じゃないんだ」

 白銀竜はしばらく黙っていた。

 心の奥まで見透かされることが怖いのだろう。人間への警戒心が強い彼女にとって、自分の意思とは関係なく本音が伝わるなど、鎖に縛られることとは別の苦痛かもしれない。

 それでも、今の俺には能力を封じる方法がない。聞こえないふりはできても、本当に聞かないことはできなかった。

『……三歩までだ』

「何が?」

『現在の位置から三歩だけ近づくことを許す。それ以上進めば、今度こそ容赦しない』

「三歩では鎖に手が届かないと思うけど、分かった。まずは三歩だけにする」

 一歩進むたび、雪が膝近くまで沈んだ。白銀竜は俺の動きを警戒していたが、逃げることも攻撃することもできない。近くで見ると、その体を覆う銀色の鱗は傷だらけで、左肩には太い杭のようなものが突き刺さっていた。

 黒い鎖は首、翼、四肢、胴へ巻きつき、その端は雪原へ打ち込まれた六本の杭へつながっている。鎖の表面には赤黒い文字が脈打つように浮かび、白銀竜の青い血を少しずつ吸い上げていた。

 ただ拘束するための道具ではない。

 鎖そのものが、巨大な魔法装置として動いている。

「少しだけ、文字を読ませてほしい。鎖に触れなくても、近くからなら意味を拾えるかもしれない」

『その文字は人間の術者が刻んだものだろう。私には読めぬが、おまえなら分かるのか』

「最初から分かるわけじゃない。ただ、文字が何を命じようとしているのかは聞こえる。人間の言葉でも、竜族の言葉でも、契約や呪いでも、伝えようとする意味があれば、俺には同じものとして届くんだ」

『そのような力を持つ者を、なぜ人間たちは役立たずと呼んだ』

「目の前で剣を振って魔物を倒す力じゃないからだろう。古代遺跡の文字を読んで罠を止めても、罠が作動しなければ誰も危険だったとは気づかない。魔物と話して戦いを避けても、戦闘がなければ勇者の功績にはならない。裏側で事故を防ぐ仕事は、何も起きないほど、何もしていないように見えるらしい」

『愚かな話だな』

「俺を利用するために褒めているなら、あまり効果はないぞ」

『褒めてなどいない。人間は愚かだと言っただけだ』

 彼女の魂からは、『この男も相当に面倒だ。少しくらい素直に受け取ればよいものを』という声が聞こえてきた。

 口にすればまた怒らせそうなので、今度は黙っておくことにした。

 俺は片膝をつき、雪へ半ば埋もれている鎖を注意深く見た。文字は王国で使われている現代語ではなく、例の古代条約と同じ始原語で刻まれている。

 視線を合わせるだけでは、始原語の意味は入ってこない。音として発せられない文章を読み解くには、書かれた文字へ意識を向け、そこに残る術者の意図を一つずつ拾わなければならなかった。

『捕らえよ。縛れ。翼ある災いを地へ伏せよ。抵抗を受けるたび、肉を裂き、骨を軋ませ、流れる力を奪え』

 命令の意味が、頭の中へ濁流のように押し寄せた。

 吐き気をこらえながら先を追うと、鎖が吸収した力を送る先まで見えてきた。六本の杭は地中で一つの魔力回路へつながり、奪った力を雪原の南側、人間王国の領内へ流し続けている。

 俺が追い出された砦の方向だった。

「この鎖は、あなたを捕らえるためだけのものじゃない。魔力と生命力を吸い上げて、王国側へ送っている。おそらく、国境砦を守る結界か、大規模な攻撃魔法の動力に使うつもりだ」

『人間どもが竜殺しの杭を国境へ持ち込んでいるという報告は受けていた。しかし、私を殺すためではなく、生かしたまま力を奪う道具だったのか』

「抵抗するほど鎖が締まり、より多くの魔力を吸収する仕組みになっている。あなたがさっき冷気を吐かなかったのも正解だ。もし俺を攻撃していたら、鎖が首と翼をさらに締めつけていた」

『おまえを殺さなかったのは、鎖を警戒したからではない。私が本気を出せば、この程度の拘束など……』

 白銀竜は強がるように首を動かしたが、その瞬間、首へ巻きついた鎖の文字が赤く光った。

 鎖は生き物のように縮み、鋭い棘が銀色の鱗の隙間へ食い込んだ。白銀竜の喉から苦しげな声が漏れ、青い血が新たに雪へ落ちる。

「動くな。少なくとも、仕組みを確認し終えるまでは絶対に抵抗しないでくれ」

『この程度の痛みで、私が屈すると思うな』

「思っていない。ただ、俺の目の前で意地を張って死なれると寝覚めが悪い。竜族の誇りが命より大事だという話は、元気になってからいくらでも聞くから、今は言うことを聞いてくれ」

『人間の分際で、私へ命令するつもりか』

「助けてほしいなら、たまには助けようとしている相手の言葉も聞いてくれ。俺は医者でも魔法使いでもないし、この吹雪の中で使える道具もほとんどない。あなたまで協力してくれなければ、本当にどうしようもないんだ」

 白銀竜は不満そうに鼻から白い息を吐いたが、それ以上動こうとはしなかった。

『……次に無礼な口を利いたら、鎖から解放された後で食い殺す』

「解放された後なら好きにすればいい。それまでは、なるべく大人しくしていてくれ」

『なぜ、そのように平然としていられる。私がおまえの同族を何人殺したのか、おまえは知らぬのだぞ』

「知らないから、勝手に罪を決めつけるつもりもない。俺を追放した連中だって、人間というだけで俺と同じ考えを持っていたわけじゃない。人間と竜族を大きな箱へ放り込んで、片方が悪いと決めれば話は簡単になるだろうが、簡単な説明が正しいとは限らない」

『私は、人間を信用していない』

「今すぐ信用してくれとは言わない。俺だって、さっきまで一緒に旅をしていた仲間に追い出されたばかりで、誰かを簡単に信用できる気分じゃない。それでも、この鎖を仕掛けた人間と、鎖を外そうとしている人間が同じではないことくらいは分けて考えてくれ」

 しばらく返事はなかった。

 吹雪が岩山へぶつかり、細かな雪が白銀竜の傷へ降り積もっていく。彼女は弱っている。それでも、俺の前で目を閉じることだけはしなかった。

『おまえは、私を助けて何を望む』

「何を望むって?」

『金か。竜帝国での地位か。それとも、おまえを追放した王国への復讐か。命を危険にさらして敵国の竜を助ける以上、何も求めていないとは言わせぬ』

「できれば、この雪原から出るまで運んでほしい。さすがに歩いて村まで行ける気がしなくなってきた」

 白銀竜は呆気に取られたように俺を見つめた。

 魂の声まで一瞬静かになったので、よほど予想外だったらしい。

『私を利用して王国を滅ぼしたいとは思わないのか』

「追い出された直後だから、腹が立っていないと言えば嘘になる。でも、砦には俺へ食料を渡してくれた人もいるし、事情を知らない兵士や家族だって暮らしている。俺一人がひどい目に遭ったから、全員死ねとは思えない。それに、王国を滅ぼしたところで、俺が費やした二年間が返ってくるわけでもない」

『欲がないのか、それとも、馬鹿なのか分からぬ男だな』

「欲ならある。温かい部屋で眠りたいし、できれば腹いっぱい食べたい。今後は、やった仕事を自分の功績として認めてもらいたいとも思っている。ついでに、仕事を始める前に給料の額も確認したい」

『最後のものは、望みと呼ぶほど大層なものではなかろう』

「俺もそう思っていたけれど、この世界では意外と難しかったんだ」

 白銀竜の喉から、かすかな音が漏れた。

 苦痛によるものかと思ったが、魂の声から伝わってきたのは、ほんのわずかな可笑しさだった。笑ったことを知られたくないらしく、彼女はすぐに顔を背けてしまった。

 俺は鎖の文字へ意識を戻した。

 拘束、吸収、転送という三つの命令が複雑に絡み合っているが、この魔法は完全なものではなかった。人間の術者は始原語の一部を正確に理解できず、既存の文章をつなぎ合わせている。

 意味の流れに、わずかな隙間がある。

 そこを書き換えれば、鎖を外せるかもしれない。

「方法はありそうだ。ただし、少し面倒な仕組みになっている」

『私の魔力で壊せぬものを、おまえに壊せるのか』

「壊す必要はない。鎖に自分から外れてもらえばいい。魔法は力だけで動いているわけじゃなく、言葉によって何をするのか決められている。命令の意味を変えれば、鎖はあなたを捕らえる道具ではなくなる」

『簡単に言うが、始原語を書き換えるなど、現在の竜族にさえできぬ』

「俺も文字を書き換えるだけならできない。新しい命令を鎖へ認識させるには、今ある文章と俺の能力を直接つなぐ必要がある。そのための触媒が要る」

『何を使う』

 俺は赤黒く脈打つ文字を見つめた。

 近づくにつれて、鎖が何を求めているのかが、はっきりと聞こえるようになっていた。

『意味を知る者の血を捧げよ。命の言葉をもって、命令を改めよ』

「俺の血だ。この鎖は、始原語の意味を理解している人間の血を使えば、命令を上書きできるように作られている」

『ならぬ』

 白銀竜が即座に答えた。

 先ほどまでの尊大な態度とは違い、迷いのない強い声だった。

「まだ、どれくらい必要になるかは分からない。指先を少し切るだけで済むかもしれないし、最悪でも命まで取られる仕組みではないと思う」

『思う、だと? 確証もなく、自分の血を呪具へ与えるつもりなのか。おまえは私と出会ったばかりで、名前すら知らぬのだぞ』

「そういえば、まだ名前を聞いていなかったな。俺は如月遥人だ。遥人が名前で、如月が家名。あなたは?」

『今は名乗る必要がない。そもそも、そのような問題ではない』

「俺だけ名乗らせておいて、それは少し不公平じゃないか」

『黙れ。おまえは自分の命を何だと思っているのだ。人間に追放されたからといって、投げ捨ててよいものではない』

 白銀竜は怒っていた。しかし、魂から聞こえる声は、それ以上に切実だった。

『この男まで死なせたくない。私を助けようとした者が、私のために命を失うところなど、もう見たくない』

 もう、という言葉が気にかかった。

 彼女は過去にも、自分を守ろうとした誰かを失っているのだろう。だからこそ、人間を信用せず、助けを求めることさえ拒んでいる。

「自分の命を粗末にするつもりはない。俺は今日、仲間と居場所を失ったけれど、だからといって死にたいわけじゃない。むしろ、あいつらが俺を追い出したことを後悔するくらい、しぶとく生き残ってやりたいと思っている」

『ならば、危険な真似をせず立ち去れ』

「それでは、あなたが死ぬ。さっきも言っただろう。助けを求める声まで聞こえなかったふりをするのは、苦手なんだ」

『私は、おまえに助けてほしいなどと口にしていない』

「口では言っていないな。でも、もう聞こえてしまった。通訳というのは面倒な仕事で、知らない言葉なら無視できても、意味を理解した後では、聞かなかったことにするのが難しい」

 俺は雪の中から、薄く尖った石を拾い上げた。

 白銀竜の瞳が大きく見開かれる。

『やめろ、遥人。私の命令が聞けぬのか』

「さっきまで名前も知らなかった相手に、ずいぶん親しげに呼ばれた気がする」

『そのようなことを気にしている場合か。血を与えれば、鎖がおまえの生命力まで奪うかもしれぬ。私を助ける義務など、おまえにはないのだぞ』

「義務がないから、自分で決められる。王国に命令されたわけでも、勇者の功績を守るためでもない。これは俺が、俺の意思でやると決めたことだ」

 右手の人差し指へ石の尖った部分を当てると、白銀竜が鎖を軋ませながら身を起こそうとした。その動きに反応し、黒い棘がさらに深く食い込んでいく。

「動くな。あなたが暴れたら、それこそ俺がやろうとしていることが無駄になる」

『止めたいのなら、今すぐ石を捨てろ。私は、おまえに命を懸けてほしいなどとは頼んでいない』

「あなたも、言葉と本音が一致しない人なんだな。俺の前では、そのやり方はあまり向いていないと思う」

 指先に鋭い痛みが走り、赤い血がにじんだ。

 その一滴を黒い鎖へ落とした瞬間、雪原全体が揺れた。

 六本の杭から赤黒い光が立ち上り、鎖に刻まれていた始原語が一斉に俺のほうを向く。文字であるはずのものが無数の目を開き、触れた人間の価値を測るようにこちらを見つめていた。

 頭の奥へ、冷たい声が流れ込んでくる。

『言葉を知る者を確認した。命令の改変には、相応の生命を要求する』

 予想していたよりも、はるかに重い対価だった。

 黒い鎖が血の落ちた指へ絡みつき、腕を通して俺の中へ侵入しようとする。振り払おうとしても、指一本動かせなかった。

『遥人、手を離せ! 私など放っておけ!』

 白銀竜の叫びとともに、今までで最も鮮明な魂の声が届いた。

『お願いだから、死なないでくれ。もう誰かを失うのは嫌だ』

 俺は遠のきかけた意識をつなぎ止め、彼女へ笑ってみせた。

「最初に近づくなと言われたとき、素直に聞いておくべきだったな。でも、ここまで来た後で忠告を聞くのは、さすがに遅すぎる」

 鎖から流れ込む命令を受け止めながら、俺は「捕らえよ」と書かれた始原語へ、自分の言葉を重ね始めた。

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